年度末最後の月を迎えました。今月は色々な場面で冊子やおたよりに拙稿を載せて頂きましたので、そのうちのいくつかを掲載させて頂きます。
まず、浦河高校生徒会誌「蹄跡」の巻頭言です。
『蹄跡』第17号の発刊に寄せて
校長 生田仁志
浦河高校としての歴史は昭和23年に遡るが、母体となった町立浦河実践女学校にまで遡れば、その歴史は85年ということになる。それなのに、生徒会誌は「なぜ」17号なのだろう。西暦2001年に発刊された『蹄跡』第1号を紐解いてみたが、どこにも発刊の経緯は記されていなかった。生徒諸君のご両親などで当時のことをご存じの方がいたら、是非、詳しく聞いてみてほしい。
さて、「なぜ?」というちょっとした疑問を持って様々な事柄を見つめてみることは大切なことだと思う。「理由なんかいいからさっさとやりなさい。」と言われてしまうと、やる気は出ない。理由にこそ前に進むためのとても重要なエネルギーが内包されているのだから。「理由」は、「意味」とか「目的」、「価値」とかいった言葉に置き換えても良さそうだ。生徒会誌『蹄跡』はどんな目的で発行されているのか。どんな価値があるのか、どんな意味があるのか。その目的や意味や価値に対応した「内容」になっているのか、という評価の意識も生まれてくる。生徒会役員の皆さんには、リーダーとして高校生活の目的や意味や価値について、しっかりとしたイメージを持っていてほしい。そして全校生との代表として、生徒会が目指すより充実した高校生活の方向性を示し続けてもらいたい。浦河高校の生徒諸君には、そういったリーダーの下、生徒同士が共通のクラスや部活動、行事などを通じてつながってきたこと、つながっていること、つなげてきたこと、そして、浦河高校の歴史もつなげていくことを、『蹄跡』に記された1ページ1ページに見つけられたら、とても素敵なことだと思う。
次は、本校で行った研修のまとめである「研修録」の巻頭言です。
発刊に寄せて
明治、戦後に次ぐ第3の教育改革と総合学科の趣旨
北海道浦河高等学校長 生田仁志 生徒が主体的に、かつ生涯にわたってよりよい自己実現の道を選択していくための力が、今後ますます多様化し、複雑化していく社会で生きていくために必要な力である。単なる受験学力や出口指導に偏った教育の弊害が叫ばれてやや久しい。現在の教育改革を概観すれば、学習指導要領という教育内容等に係る末端の改訂にとどまらず、教育基本法の改定に始まり、その具現化を目指して関係する様々なシステムを総合的に、体系的に作りかえようとする、明治、戦後に次ぐ第3の教育改革と呼ばれる大刷新が行われようとしている。総合学科は、そういった一連の教育改革の過程で生まれた学科である。画一的、一方的で知識の量を重視する教育からの脱却を図るために、教育課程の改善という系論的手法によらず、今後必要となる力を身に付けさせること、そのものが学校の趣旨となるよう新たに設置された学科が「総合学科」なのである。それ故、第3の教育改革の目指すところは、総合学科が目指すところと一致しているはずであり、その意味で、新学習指導要領は本校の自己評価の観点ともなるはずなのである。
総合学科に移行して5年が経過した本校にとって、今回の改革は、総合学科としての本校が、その趣旨に照らして、適切に生徒を育てているかどうかの検証を進める絶好のチャンスである。将来予想される間口減に備えるためにも、総合学科の趣旨や、本校の教育理念は継承し続けなくてはならない。それらが失われる時は、とりもなおさず日高管内に本校が存続し続ける意味が失われる時だからだ。私達教育者が、先を見誤ってはいけない。様々な情報を得、歴史を遡り、将来を予見する、まさに「温故知新」の姿勢で臨まなければ、生徒に本当に必要な力を与えることはできない。研修の目的はそこにある。所属する学校の目標、学科の趣旨、教科の目標などをいかにして実現するか、そのための理論や手法を学び、自らの実践に繋げていくことが研修の目的である。そして言うまでもなく、「研修集録」は記念品ではない。発行することが目的となっていたり、配布されて二度と開かれることのない集録では、意味がない。
本年度、本校では「教育課程研究指定事業(総合的な学習の時間)」及び「情報通信技術を活用した教育振興事業(IE-School)」の二つの指定校事業に取り組んでいる。これらは、学校教育目標実現のため戦略的に有効に活用させて頂いている。総合学科の趣旨に立ち返り、生徒にどのような資質・能力を身に付けさせるのかを明らかにするとともに、その手法と評価について研究することが必要であった本校にとっては、学校運営上、これら二つの指定事業は、まさに「渡りに船」だった。そのような経緯を踏まえ、取り組んできた本年度の研修は、目指す方向が統一され、かつ、広く本校職員に周知され、活用された資料のまとめであり、さらに本校独自の実践事例集として、他校からも垂涎の的となるような集録となっているはずだ。
これからの社会の有り様は、社会全体を構成する個々の「地域社会」が、どのように人々の生活基盤として機能するかにかかっている。複雑多様化し、混沌として予測困難な世界が待ち受けるにしても、これからの世界を構築する若者に必要な資質・能力は「人につながる力」「人をつなげる力」に集約できる。とりわけ北海道の高等学校においては、そのような資質・能力にあふれた生徒を育てることが使命だと考えている。これは、私の校長としての理念である。その理念を具現化できる可能性あふれる生徒と優秀な教師集団との巡り会いに感謝し、発刊に寄せる言葉としたい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
浦河高校の生徒に伝えたいこと、教職員に伝えたいことを端的に述べたつもりです。お読み頂いた上でのご指摘やご感想などをお聞かせ頂ければ幸いです。